あるビジネスウーマンは、自分の体験をこんなふうに語ってくれた。
「ある朝、仕事に向かいながら、これからは何でも前向きに考えようと決めたんです。それまでずっと、暗い落ちこんだ気分でいましたから・・・。私は自分にこう言い聞かせました。『幸せな気分のときは、いつも顔つきまでぐっと明るくなる。だから、ものごとを前向きに考えるようにすれば、自分だけじゃなくまわりの人も変わるんじゃないかしら』。
私の胸の中で、好奇心がむくむくと頭をもたげました。私はますます決意を固くし、道すがら、自分は幸せなのだ、何ひとつ不満のない暮らしをしているのだと思いつづけました。
すると驚いたことに、気持ちが晴れやかになって背筋がまっすぐ伸び、足取りが軽くなりました。まるで空を歩いているような気分でした。自然と口元がほころんでくるのを、何度か必死で抑えました。ところがすれ違う人はみな、悩みや不安に満ちた気むずかしい顔をしています。自分の心の中にある太陽を、ほんの少しでもいいから分けてあげたいと思いました。
会社に着くと、簿記係と軽口を交わしました。もともと気がきくほうではないので、ふだんなら絶対そんなことはしないのですが・・・。でも、おかげで彼女にも私の楽しい気分がうつったようで、ふたりとも気分よく仕事を始めることができたんです。
うちの社長はとても忙しくて、いつも仕事のことで頭がいっぱいなんです。私はふだん、自分の仕事について社長に何か言われると、根が神経質なのでかなり気にしてしまいます。でもその日は、何があっても明るさを忘れまいと決めていたので、社長にも元気よく応対しました。すると社長の表情がゆるみ、ずっと話がしやすくなったのです。
私はこの調子で一日中、自分やまわりの人が明るい気分で過ごせるように努めました。お世話になっている下宿先の家庭でも、同じようにふるまいました。すると、下宿先の家族は(これまでどこかよそよそしく思いやりに欠けるように思っていたのですが)、実は意外に気が合い、心からの友達づき合いができることに気がつきました。こちらが問題の種を遠ざければ、向こうから歩み寄ってくれるものなんですね」
「だから、もし自分の境遇に不満があるなら、もたもたせず自分にこう言い聞かせることです。『ものごとが自分の思いどおりにならないとしても、せめて他人の役に立てるよう、出会うすべての人に明るい気持ちを分けてあげよう』。そうすれば、身のまわりに次々と幸せの花が開き、友達や仲間に困ることはなくなるでしょう」
幸せをもたらす魔法を身につければ、何よりも深い満足感を得ることができる。世の中には、お金に飢えているより、愛や思いやり、励ましに飢えている人のほうが多いのだ。幸せの魔法を使えば、こうした人々をいつでも力づけてあげられる。